最果てでもお約束。
「来る。何故かわからないけれどね。しかも非武装で旅行しに来たみたいに。向こうにもこの町のルールは伝えているんだよ?本州に行きたければ橋を使わず空路か海路にしなさいって」
なのに、あいつらときたら。
「・・・・・家族連れで来た一家が居たよ。まだ若い夫婦でさ、小さな女の子を連れてた」
仕事柄、その類の記憶には事欠かない。忘れてしまいたい、死んでしまいたい記憶。
「町の入り口で、この町のルールを話す。帰りなさいとも伝える。でもあいつら入って来るんだよ。旦那の方がさ、この県の人だったらしくてさ。大丈夫だって、日本も4国も平和だって」
阿呆だ。今までだって結構な人数が”南”から来て行方不明になってる。そのニュースだって4国には伝わっているはずなのに。
「入り口では事は起こさないんだ。少し町に入って、人目につかなくなったら終わり。最悪な事にさ、見たらわかるだろうけれど橋は『宵の口』より更に奥の『真睡』に架かってる。この町でもっとも危ない所にね」
まだぼくも若かった。20を少し過ぎて、ゆうの事があってこの仕事についてすぐの頃だ。どうしても引き返してほしくて、一家の後を追った。
制服が夏服に変わって間もなかった。腰につけた無線機がガチャガチャと鳴ってやかましかったし、首にかいた汗はまだ新しい襟と擦れて痒いやら痛いやら。
「黒い大きな車でちょっとだけ旦那を跳ねるんだ。そしたら中から4人くらいの男が出てきて。奥さん・・・・女の人は酷かったよ。わかるかな」
あれ、空を見上げながら話していたのに、空がコンクリートのようになんだかごもごもしてきた。
「旦那の方はバットか何かで何度か殴られる内にすぐ動かなくなった。奥さんの方は・・・方は・・・」
「こう!」
がしっと両肩を掴まれる。ちょっと痛いくらいの、でも柔らかい両手で。
「そんなの・・・思い出さなくていいよ」
ぼくは話し始めてようやく一回目の瞬きをした。大粒の涙が頬を伝う。
「女の子が・・・小さな女の子が人形みたいな目でぼくを見るんだ。助けてって。すぐに無線で同僚に助けを求めたよ。でもな・・・ほっとけって」
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