最果てでもお約束。
「物騒だな」
そう呟いて鉄の山にも見えた影は一跨ぎで這いつくばったぼくの頭を越えていく。
そこからは早かった。本当に早かった。
だって、彼は右手に持っているものを峰討ちに変えて、5回振っただけだから。
一人目に近づいて行く。相手はまだゆうの腹を蹴るので夢中。
ぶんっ。右手に持っていた大振りの鉈を一閃。知っているだろうか、実は峰討ちには大変な技術がいる。
そもそも時代劇や今回のようにわざわざ峰に返してからは討たない。
刃を相手に向け、そのまま振り、肉体に当たる寸前に峰に返す。
殺気はそのままにし、殺すという気合を声に出して相手に「斬られた!」と思わせる。
それが本来の峰討ち。しかも、人間の体を鉄の棒で本気で殴ってみるとわかる事なのだけれど、まず討った側の両手がただではすまない。
刀は斬れるからこそその抵抗が少なくなっている。それがまったく無い。
つまり、人を討った衝撃がモロに両手にかかるということ。
彼は片腕で、しかも声も出さずに人の後ろ首を思いっきり右手に持った鉈の背で殴った。峰で討ってはいる。が、しかしそれは峰討ちでは無くただの打撃。
相手は斬られたとも思わないだろう。獲物も見てはいないのだから。
しかし
「・・・」
どさり。一秒前まで楽しそうにゆうの腹を蹴っていた男は地面に伏して呻き声もあげない。
隣でゆうを踏みつけていた男が彼に気がつき、彼と正対する。
ぶんっ。顔面を丁度斜めに絶つように鉈の背が食い込み、その男も崩れ落ちた。
その二人とゆうに背を向け、笑いながら携帯で話していた男が慌てて何か言ったように思えた。
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