最果てでもお約束。
全身を覆う怖気とは裏腹に熱い体内。

火を噴くような肺。

真綿の詰まったような四肢。

ぼくは真っ暗闇の中、見慣れすぎた背中を走って追う。

すぐに追いつけると思っていた。

かけっこではいつもぼくの方が早かった。

ゆうは運動音痴で。

いつも笑われて悔しがっていて。

それを背中に庇ってやってたんだ。

今はその背を追っている。

必死で。

「ゆう!待て!大丈夫だ!」

何が大丈夫なものか。

ぼくは結局どうするつもりだった?

綺麗事を言うだけだったろう。

ゆうの背中と、その左手に掴まれた少年・・・いや、少女の背中は近くならない。

真睡に架かる小さな橋を渡りきると、ゆうは振り返った。

街灯が2つ小さく揺れる。

「こう!いつも思ってた。オレは守られたくなんて、なかったんだよ!」

ゆうの口が小さく動く。

小さすぎて、何を言っているのかわからない。

「ゆう!戻って来い!ぼくが・・・」

守ってやると、今拒否された事を言おうとして止めた。

もしかしたら、あの時言っていたならば。

そう思うとやりきれない。

ゆうはちょっと笑って、右手に持っていた煌く何かを橋の下に流れる川に投げ捨てた。

そしてまた踵を返して走り出す。

ぼくは、もう追う事が、できなかった。
< 98 / 140 >

この作品をシェア

pagetop