ドラマチックSボーイ




「あ、はい!」

助手席の窓を開けて、
顔を出した楠さんが私を呼びとめた。

私は車に近づく。


「俺これから車を駐車場に入れてから打ち合わせがあるから静のことヨロシクね。」

「えっ、私、中に入っても…」

「静が事前に許しをもらってるから大丈夫。」


さ、さすが蓮見静…

正直入りたくないけど…


それを察知したのか楠さんは付け足す。


「舞ちゃんのこと、大体は聞いたよ。

今日のことはもちろん静が計画したんだ。

アイツ、意外と素直じゃないから舞ちゃんは何も知らないと思うけど、
とりあえず入って、芸能界がどんなところか舞ちゃんの目で知ってほしい。」



真剣な目で言われた楠さんの言葉に、

私は「はい」としか言えなった。




静くんがなぜ私を此処に連れてきたのか、

その理由を楠さんに訊くのを忘れてしまったけれど、

さっきの言葉で、中に入るのが嫌という気持ちが
不思議と軽くなった気がして、


私は一歩ずつビルの中へと進んでいった。





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