平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
1.サ糖みたいな甘い夢を見た朝
1.サ糖みたいな甘い夢を見た朝
とあるホテルのバーラウンジ。
星空が地面に落っこちてきたような風景が眼下に広がり、ともすればその高さにくらりとめまいを起こしそうになった。
そんなわけはあるはずないのに足元に心許なさを感じながら、淡いブルーのカクテルグラスを静かに傾ける。
おしゃれな見た目からは想像できないほどの強いアルコールに、喉が焼けるよう。
だけどそれを表には出さずに、余裕の微笑みを向かいの席に向けた。
「今日はごちそうさまでした。フレンチ、とても美味しかったです」
「喜んでもらえて嬉しいよ」
と、柔らかく目尻を下げ白い歯を零す彼は、長い指の大きな手でブランデーグラスを揺らしながら、手首に巻かれた時計をチラ見した。
あれ、テレビで芸能人がしているのをみたことある。
ブランドはわからないけど、いっぱい針の並ぶ文字盤は十分お高そう。
不躾に凝視するわたしの視線と、彼のそれがテーブルの上で重なる。
ことり、とコースターにグラスを戻すと、彼が手品のように一枚のカードキーを滑らした。
「今夜は君と離れたくない。いいよね?」
熱のこもる瞳に捉えられ、わたしは小さく頷く。
恥ずかしさに顔を上げられずにいると、そっと伸びてきた指が顎にかかり、小さなテーブル越しに近づく端整な彼の顔。
睫毛が触れ合いそうになるほどの距離でそっと瞼を閉じて――。
PiPiPiPi……
ああ、やっぱり。
眼を開けると同時に飛びこんでくる見慣れた天井。瞬間、頭の中からキレイさっぱりと消えたお相手の顔。
なにコレ。今どきテレビドラマでも、滅多にお目にかかられない展開は。
自分の貧相な演出力にげんなりとしながら、パイプベッドからのそりと這い出た。
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