平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
◇ ◇ ◇
「なんで教えてくれなかったんですか、ふたりが二卵性の双子だって」
「晃が言ってるもんだと思ったのよ。って、違う、そこじゃない!下手くそ。痛っ、いったーい!!」
陣痛が本格的に進んで女王様と化した山越希(旧姓 橘希)さんに、わたしと晃さんは奴隷のようにかしずき、少しでも楽になるようマッサージをしたり、飲み物や軽い食べ物を買いに走ったりしていた。
押し寄せる痛みの合間にどうにか事の次第を聞き出し、ようやく現在に至る。
「うっせーな。文句言うなら、やってやんないよ。――おしゃべりはおまえの専売特許だろうが」
つられてなぜか、いつもより口調が荒い晃さんは新鮮だ。
「ふん! いいわよ、あんたなんかに頼まないから。お願い~、礼ちゃん~」
「は、はいっ」
場所を交代して、助産師さんにレクチャーされたマッサージを見様見真似で施す。
「あぁ、やっぱり女の子の手のほうが柔らかくて良いわ」
少し波が引いたのか、疲れでぼぅっとする希さんを間近で見て、出産の大変さを思い知った。
それにしてもわたしの気苦労はなんだったんだ、と腰をさする手を休めずにため息を吐く。
途切れ途切れに訊いたことを整理するとこういうこと。
希さんのご主人が、今年に入って急に転勤になった。もちろん希さんもついて行くつもりだったけど、なにぶん身重。
見知らぬ土地で新しい産院を探すのも大変な御時世。それに産後は里帰りして、しばらくはご両親の世話になるつもりだった。
だから、ご主人には赤ちゃんが落ち着くまで単身赴任してもらうことにした。
そこで出産までの間、ちょうどお店を始めようとしていた晃さんの部屋に、店を手伝うという条件付きで居候することにしたという。
自分たちが住んでいたマンションは早々に引き払ってしまったそうだ。
「なんで教えてくれなかったんですか、ふたりが二卵性の双子だって」
「晃が言ってるもんだと思ったのよ。って、違う、そこじゃない!下手くそ。痛っ、いったーい!!」
陣痛が本格的に進んで女王様と化した山越希(旧姓 橘希)さんに、わたしと晃さんは奴隷のようにかしずき、少しでも楽になるようマッサージをしたり、飲み物や軽い食べ物を買いに走ったりしていた。
押し寄せる痛みの合間にどうにか事の次第を聞き出し、ようやく現在に至る。
「うっせーな。文句言うなら、やってやんないよ。――おしゃべりはおまえの専売特許だろうが」
つられてなぜか、いつもより口調が荒い晃さんは新鮮だ。
「ふん! いいわよ、あんたなんかに頼まないから。お願い~、礼ちゃん~」
「は、はいっ」
場所を交代して、助産師さんにレクチャーされたマッサージを見様見真似で施す。
「あぁ、やっぱり女の子の手のほうが柔らかくて良いわ」
少し波が引いたのか、疲れでぼぅっとする希さんを間近で見て、出産の大変さを思い知った。
それにしてもわたしの気苦労はなんだったんだ、と腰をさする手を休めずにため息を吐く。
途切れ途切れに訊いたことを整理するとこういうこと。
希さんのご主人が、今年に入って急に転勤になった。もちろん希さんもついて行くつもりだったけど、なにぶん身重。
見知らぬ土地で新しい産院を探すのも大変な御時世。それに産後は里帰りして、しばらくはご両親の世話になるつもりだった。
だから、ご主人には赤ちゃんが落ち着くまで単身赴任してもらうことにした。
そこで出産までの間、ちょうどお店を始めようとしていた晃さんの部屋に、店を手伝うという条件付きで居候することにしたという。
自分たちが住んでいたマンションは早々に引き払ってしまったそうだ。