平凡な毎日に恋という名の調味料(スパイス)を
「だって家賃がもったいないし、一樹(かずき)が、わたしが家に独りになるのが心配だって」
「それだったら、実家へ帰ればいいだけだろうって言ったんだけど」
「イヤ。ただでさえ初孫で浮かれているお母さんたちよ? 甘やかされて太って、妊娠中毒症になったら困るでしょう。少しくらい働いて動いてたほうが気が楽だったの」
「おまえが楽でも、こっちはひやひやのの毎日だったんだからな」
あれが『少し』なのか、と姉弟ゲンカを始めたふたりをあらためてまじまじと観察する。
背が高くスタイルが良いこと以外、外見の共通点があまりみつけられない。顔立ちだってそれぞれに整っているけれど、パッチリ系の希さんとほんわか系の晃さんとでは印象が異なる。
双子でも、男女だとこんなもんなんだろうか。
ああ、だけど。
人に警戒心を抱かせず、気づけば自然に傍にいて安心感を与えてくれるところはよく似ているのかな。
それほど人付合いが得意ではないわたしが、すぐに橘亭に馴染んだのはそのせいだろう。
阿吽の呼吸で仕事が進められるのも、産まれる前からいっしょにいた双子ならではのものだと思えば、なんの疑問もなくストンと腑に落ちた。
もともと敵うはずなどなかったんだ。バッカみたい。
自然と笑みが零れてくる。
「あ、礼ちゃんひどい! 私がこんなに苦しんでいるのを見て、笑ってる」
「そりゃあ、しょうがないよ。だって、おかしいし」
「違いますからっ!」
痛みによる呻き声に混じって笑い声が起こる病室に、老夫婦が息を切らして飛び込んできた。
「もう、産まれたのっ!?」
「男か? 女か? どっちだ?」
キョロキョロと室内を見回してベッドの上で痛みに耐えている希さんをみつけると、揃ってガクッと肩を落とした。
「なんだ、まだだったの。希のことだから、スッポン! と産んじゃったかと思ったわ」
ピンッと背筋が伸びた動きの機敏な老婦人は、きっと――。
「お母さん、こんな歳でもいちおう初産なのよ。そんな簡単に……いてて」
「ほらほら」
すかさず希さんの背中に手を回す。さすがは経験者だけあって狙いが的確らしく、わたしたちがしていたときよりもずっと楽になったようだと、彼女の表情から見てとれた。
「それだったら、実家へ帰ればいいだけだろうって言ったんだけど」
「イヤ。ただでさえ初孫で浮かれているお母さんたちよ? 甘やかされて太って、妊娠中毒症になったら困るでしょう。少しくらい働いて動いてたほうが気が楽だったの」
「おまえが楽でも、こっちはひやひやのの毎日だったんだからな」
あれが『少し』なのか、と姉弟ゲンカを始めたふたりをあらためてまじまじと観察する。
背が高くスタイルが良いこと以外、外見の共通点があまりみつけられない。顔立ちだってそれぞれに整っているけれど、パッチリ系の希さんとほんわか系の晃さんとでは印象が異なる。
双子でも、男女だとこんなもんなんだろうか。
ああ、だけど。
人に警戒心を抱かせず、気づけば自然に傍にいて安心感を与えてくれるところはよく似ているのかな。
それほど人付合いが得意ではないわたしが、すぐに橘亭に馴染んだのはそのせいだろう。
阿吽の呼吸で仕事が進められるのも、産まれる前からいっしょにいた双子ならではのものだと思えば、なんの疑問もなくストンと腑に落ちた。
もともと敵うはずなどなかったんだ。バッカみたい。
自然と笑みが零れてくる。
「あ、礼ちゃんひどい! 私がこんなに苦しんでいるのを見て、笑ってる」
「そりゃあ、しょうがないよ。だって、おかしいし」
「違いますからっ!」
痛みによる呻き声に混じって笑い声が起こる病室に、老夫婦が息を切らして飛び込んできた。
「もう、産まれたのっ!?」
「男か? 女か? どっちだ?」
キョロキョロと室内を見回してベッドの上で痛みに耐えている希さんをみつけると、揃ってガクッと肩を落とした。
「なんだ、まだだったの。希のことだから、スッポン! と産んじゃったかと思ったわ」
ピンッと背筋が伸びた動きの機敏な老婦人は、きっと――。
「お母さん、こんな歳でもいちおう初産なのよ。そんな簡単に……いてて」
「ほらほら」
すかさず希さんの背中に手を回す。さすがは経験者だけあって狙いが的確らしく、わたしたちがしていたときよりもずっと楽になったようだと、彼女の表情から見てとれた。