君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

 どこか遠い場所から、教会の鐘の音が聞こえてきた。

 向かいの道路の柴犬が鼻先をクンッと上げ、澄んだ黒い瞳で無心に音を追う。

 色づいた空気に染み入るように響きわたる、優しい音色があたしの心を震わせる。

 降るような透明な音に包まれ、あたしと凱斗は向かい合い、見つめ合う。

 言葉にできない、細い細い糸のような何かが薄っすらと、でもたしかに繋がったような気がした。

 このまま、時間が止まってしまえばいいのに……。

「行こうか」

「うん」

 でも、立ち止まってはいられないんだ。

 手足を伸ばした亀に進化しなきゃ。前に進まなきゃ。

 だから行こうね。勇気を出して一緒に行こうね。

 あたしと凱斗は、入江さんの家に向かってまた歩き始めた。






< 140 / 274 >

この作品をシェア

pagetop