君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
世界の奥の扉
入江さんの自宅は、表通りから少し奥に入った、入り組んだ静かな住宅街にあった。
肩を寄せ合うようにして並ぶ家々の、ひとつの家の前で凱斗が立ち止まる。
「ここが入江の家だ」
玄関脇に枕木風や樽風の、オシャレなプランターがたくさん並んで、色とりどりの花を咲かせている家。
ここが入江小花さんの家……。
あたしたちはしばらくの間、玄関の前で二階建ての家を見上げていた。
足元から背筋にかけてザワザワ走る、悪寒に似た緊張に必死に抗う。
ここは入江さんの気配が一番色濃く残っている場所。
入江さんのことを一番愛していて、大切に思っていて、その死を最も悲しむ人がいる場所。
そこに、これからあたしたちは踏み込まなきゃならない。
「入ろう」
「うん」
いつまでもここで、足をすくませているわけにはいかない。
思い切って凱斗が玄関のチャイムを押した。
『はい』
インターホンを通して聞こえてくる女の人の声に、凱斗が緊張した様子で答える。
「突然すみません。入江小花さんにお線香をあげてもいいでしょうか?」
『……いまそちらに行きます』