君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

「え? いいんですか?」

「ええ。せっかく弔問に来てくれたんだから。それにどうせ全部処分してしまうんだし」

 ……処分……。

 その言葉から冷たい雰囲気を感じて、あたしはちょっと困惑した。

 そりゃ当然、いつまでも入江さんの日用品を、そのまま放置はしていられないんだろうけど。

 でも普通そういうのって、『整理する』とか言わない?

『どうせ全部処分する』って言い方は、少し乱暴っていうか、あんまり優しさを感じられないんだけど……。

「じゃあ、二階へどうぞ。階段を上がってすぐの部屋ですから、ごゆっくり」

 そう言って彼女は、スマホを片手に和室から出ていってしまった。

 残されたあたしと凱斗は顔を見合わせる。

「どうしよう」

「勧められたんだから、行くしかないだろ。入江の部屋に」

「そう、だよね」

 でも、なんか気が引けるな。

 彼女のプライベートの領分に、土足で踏み込むような申し訳なさを感じる。

 あたしは凱斗と一緒に和室を出ながら振り返り、位牌に向かって『ごめんね』って心の中で話しかけた。

 もちろん位牌が答えるはずもなく、ただポツンと、お線香の白く細い煙に包まれているばかりだった。

< 147 / 274 >

この作品をシェア

pagetop