君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
もちろん恋愛は自由なんだし、入江さんのお父さんも新しい奥さんも、なにも悪くはない。
でも入江さんにとっては?
他人のあたしですらモヤッとしたのを感じるのに、彼女は娘の立場で、どう感じたろう?
「あの部屋、位牌しかなかったね」
「ああ」
「写真も、お花も、食べ物もなかったね」
「…………」
「なんかお供えするもの、買ってくればよかった」
本当のお母さんの写真だけが、何枚も飾られた机の上。
最近のお父さんの写真や、新しいお母さんの写真は一枚も見当たらない。
普段使われないような和室の片隅に、押しやられるように置かれていた位牌。
あの寒々しい光景が妙に胸に迫って、やるせない。
入江さんはひょっとして、この家ではあまり幸せじゃなかったんじゃないだろうか。
あたしは窓に近寄り、カーテンを開けて、明るさの増した室内を振り返る。
そしたら、勉強机に向かって写真を眺めている、入江さんの幻が見えた気がした。
あの位牌のようにポツンとひとり、背中を丸めている。
相変わらず顔はわからないけど、その頬はしっとり濡れている。
押し殺した泣き声が聞こえてきそうで、あたしの胸がギュッと痛んだ。