君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
「あたし、なんかここにいるの、つらい。帰りたい」
つい本音を吐き出してしまった。
この家に来れば、つらい思いをするだろうと覚悟はしていた。
でもいま、予測していなかった種類のつらさを感じて、あたしはとまどっている。
なんていうか、本当に、勝手に踏み込んではいけない部分に踏み込んでしまっている気がするんだ。
それは凱斗も同感みたいで、すぐにうなづいた。
「挨拶して、もう帰ろうか」
「うん」
あたしたちはカーテンを閉め、ドアを閉じて、階段を降りる。
すると、降りきらないうちに誰かの話し声が聞こえてきた。
この声、新しいお母さんの声だ。
「まだ電話中みたいだね」
「挨拶できないな。勝手に帰るわけにもいかないし、困ったな」
なんとなく声の聞こえる方向へ移動したら、廊下の一番奥の扉の前に行き着いた。
はめ込まれている細いガラスの部分から、中の様子がうかがえる。
まだ電話終わらなそうかな?
そう思いながらヒョイと中を覗きこんで、あたしは息をのんだ。
……泣いてる。新しいお母さんが、ソファに座って電話しながら、泣きじゃくっている。
ああ、やっぱり入江さんを失って、深く悲しんでいるんだ。