君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
最後の文字

 住宅地を出て、少し大きな裏通りに抜けて、もうずっとあたしと凱斗は黙々と歩き続けていた。

 胸の中に渦巻くこの感情を表すことのできる言葉が、とても見つからない。

 さっきドア越しに聞いた話が、あたしたちの頭と心を支配するように、重々しく圧し掛かっている。

 こんなに深刻な事情を抱えて歩くあたしの目に映る景色は、笑っちゃうくらい、なんの変哲もない世界だ。

 車道を走る宅配便のトラックの排気音や、深く濃い夕暮れ色に染まる家々の壁。

 わずかに夜の匂いの混じり始めた風も、人の話し声も、足音もなにもかも、普通通り。

 でも、そんな普通の世界の奥には、見えない秘密が隠れているんだ。

 ……今までずっと、幻影のように感じていた。

 話したことも、会ったことすらない、入江小花さんを。

 なのに、実体を感じることのなかった彼女のあまりにも生々しい足跡を、思いがけずに見つけてしまった。

 知らなかった世界。

 入江さんという世界に関わったことで、知ってしまった扉の奥。

 あの話は全部、本当のことなんだろうか?

 入江さんは本当に、さっきの話のような態度を、あの新しいお母さんにしてたんだろうか?

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