君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
「俺たちいま、入江の家に行ってきたんだ」
低い水音と一緒に、凱斗の低い声がする。
「そうですか」
やっぱり低い声でそう答える中尾さんは、振り返りもしない。
ひどく孤独に見える彼女の背中が、入江さんの後ろ姿の幻影と重なった。
「じゃあ、先輩たちも知ったんですね。小花のこと」
川面を見つめたまま話しかけてくる中尾さんと、入江さんの幻影に向かって、あたしは答えた。
「うん。あたし、知ったんだよ。入江さんの存在を」
自分とはまったく関わり合いのない、別世界。
その命が消えてしまったと知ったときさえ、なんの感情も感傷も湧かなかった。
でもいま、こうして後ろ姿を見ている。
見知らぬ彼女が、こんなに大きな存在になって、あたしの心を占めている。
「ずっと思っていたの。入江さんが自殺したのは、あたしと凱斗のせいなんだって。でも、もしかしたら……」
「ええ、それは違います」
まるで、『そんなこと、なんでもない』とでも言いたげな軽い口調で、中尾さんが言った。