君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

 そして不意にしゃがみ込み、足元に置いてあったバッグのファスナーを開ける。

 バッグの中から、白い小花模様が散りばめられた水色のノートを取り出し、あたしに突きつけた。

「どうぞ読んで下さい。小花の日記です」

「え?」

 あたしは面食らって、中尾さんの顔とノートを交互に見つめてしまった。

 いや、あの、どうぞと言われても……。

「これ、日記?」

「はい。そうです」

「ほんとに入江さんの日記なの?」

「だから、そうだって言ってるじゃないですか」

「で、でも、入江さんの日記なのに、あなたに『読め』と言われても……」

「そんなことが気になるんですか?」

 無表情な顔で、無表情な声で、中尾さんは言った。

「だってもう、小花はこの世にいないんですよ?」

 あたしはグッと返答に詰まってしまった。

 それは、たしかにその通りだ。

 入江さんはもうこの世にいないんだから、日記を読まれようがどうされようが、恥ずかしがりも嫌がりもしないけど。

 でも心情として、さすがに……。

「読まないんですか? 読めば本当のことがわかるのに」

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