君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
でも入江さんにとっては違った。
あたしを最高に幸せにしてくれた、まさにあの瞬間の雨こそが、入江さんの胸を引き裂く絶望の雨だった。
凱斗が立ち止まり、手に持っていた傘を開いて、後ろのあたしを振り返る。
「…………」
「…………」
傘を差す凱斗と、雨に濡れるあたしは無言で見つめ合った。
『入れよ。家まで送るから』
あのとき、凱斗が言ってくれた言葉を思い出したら、泣きたくなるほど胸が切なくなった。
もう一度あの言葉を言ってほしいと、心の底から思う。
ねえ、あたしたち、すごく幸せだったね。
傘の下で交わす言葉のひとつひとつや、歩くたびに靴先から跳ねる水滴や、少しだけ触れ合う肩と肩が、キラキラしてくすぐったくて、最高に嬉しかった。
あたしと凱斗以外、ほかには世界なんて、ひとつも無かったね。
それだけで笑顔になれて、それだけが、純粋に幸せだったね。
でもいま……あたしたちに笑顔はないの。
あたしと凱斗の間には、『入江小花』という世界があるから。