君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
まだ事実が明らかじゃなかった頃、亜里沙の家族は幸せだったんだ。
さっき、おじさん泣いてたな。
いいトシした大人の男の人が、高校生の前で泣くなんて、よほどつらかったんだろう。
おじさんも、心の奥では亜里沙を愛しているんだろうか。
おじさんもおばさんも、家族が傷ついているのは自分のせいだと、自分を責めているんだろうか。
でもそれを認めたくなくて、お互いを責めているんだろうか。
そうせずにいられないくらい、深く苦しんでいるんだろうか。
「もう二度と、『俺の娘』なんて言葉は言ってもらえないって思ってた。……でもね」
「なに? どうかしたの?」
「この前、交通事故に遭って救急車で運ばれたときね、連絡受けたお父さんが治療室に飛び込んできて、とっさに叫んだの。『俺の娘は無事なのか!?』って」
亜里沙は嬉しそうに笑って、言葉を続けた。
「もう二度と聞けないって思ってたけど、聞けた。もしかしたら、また聞ける日がくるかもしれない」
今日、『生まれるべきじゃなかった』と言われても。
明日、『俺の娘』と言ってくれるかもしれない。
明日が無理でも、あさって言ってもらえるかもしれない。
今日も、明日も、あさっても。
そうして亜里沙は、希望を捨てずに待ち続けると自分で決めたんだね。
「だから生きていこうと……思うんだ」