君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
そう言って亜里沙が見上げる空は、眩い金色に輝く太陽が山間に沈みかけ、薄く張りつめた雲を目にも鮮やかな朱色に染める。
今日、降るとばかり思っていた雨は、降らなかった。
やがて空の奥に隠れた月や星が姿を現し、真っ暗な世界を優しく照らしてくれるだろう。
こんな、霧に包まれた『だまし絵』みたいな恐ろしい世界に生まれてしまった、あたしたち。
それでもあたしは、言うよ亜里沙。
「亜里沙、うまれてきてくれて、ありがとう」
空を見上げていた亜里沙が、あたしを見た。
その琥珀色の目がみるみる潤んで、星みたいにキラキラした涙を幾粒も流す。
何度も泣いた亜里沙の瞼は腫れぼったくなって、鼻の頭も真っ赤っか。
すすり切れない鼻水が垂れちゃって、見るも悲惨な状態だ。
……綺麗だよ。亜里沙。
その目も、鼻も、唇も、肌の色も、髪の色も、なにもかも。
亜里沙は、とてもとても綺麗だよ。
「奏、うまれてきてくれて、ありがとう」
涙でグショ濡れの顔で、亜里沙は笑ってそう伝えてくれた。
生まれてきてくれて、ありがとう。
出会ってくれて、ありがとう。
たしかな思いを言葉にして、伝え合ったあたしたちは手を繋ぐ。
そして肩を寄せ合い、微笑みながらずっと夕暮れの空を見上げていた。