君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

 唇に感じる柔らかさと温もり。

 大きく見開いた両目に映る凱斗の髪の色と、赤く染まった頬の色と、雨の銀色。

 熱くなった耳に響く音は、破裂しないのが不思議なくらい激しい自分の鼓動。

 そして一斉に湧き立つ周囲の歓声と、はやし立てる指笛と、盛大な拍手の音も飛び込んでくる。

 唇と唇が触れ合ったのはほんの一瞬だけで、すぐに凱斗はパッと顔を離した。

 限界まで顔を真っ赤に染めた凱斗と、顔中の毛穴から血が噴き出すんじゃないかと思うくらい、顔面に血液が集中しているあたしが、胸を大きく上下しながら見つめ合う。

「好きだ。奏。大好きだ」

 見たこともないくらい真剣な顔でそう言ってくれる凱斗の顔が、すぐに涙で霞んで見えなくなってしまった。

 嬉しすぎて体中がジーンと痺れて、鼻が詰まって胸も一杯。

 だけど、いま何よりも伝えたい言葉をちゃんと口にして、凱斗に伝えたい。

「あたしも好き。凱斗が大好き」

 ……ああ、ほんの一瞬触れ合っただけで、世界はまた変わった。

 あたしは泣き笑いしながら、手の甲で涙をゴシゴシ拭う。

 見たいものが涙で溢れて見えないなら、何度でも拭けばいい。

 そうすればほら、見えるよ。

 あたしと初めてのキスをした、大好きな大好きな凱斗の姿が見える。

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