君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
瞼の裏に入江さんの幻影が見える。
その姿はやっぱり後ろ姿で、顔はどうしても見えないけれど、これまであたしが怯え続けた影とは違っていた。
瞼を透かす光の中で、彼女は大きく両腕を天に向かって伸ばし、雨を受け止めている。
その全身が銀色に輝く雨の色に染まっていた。
喜んでいるの? ねえ、入江さん?
思わず開いた目に、彼女の姿はもう見えなかった。
地上を駆け抜けた雨もいつの間にか止んでしまって、濡れたアスファルトと湿った制服が、わずかに名残りを残すだけ。
雨の上がった空を見上げていたら、ふと、二度と綴られることのない日記を思い出した。
白い空行を見たときにも感じた、いいようのない寂寥が胸に迫る。
彼女の世界は……終わった。
でも消滅してしまったわけじゃない。
だって入江小花という世界と、あたしの世界はたしかに関わり合ったから。
そして変わったあたしが、ここにいる。
それは彼女の世界が存在した証なんだ。
雨が急ぎ足で駆け抜けてしまっても、あたしの制服がこうして雨に染まっているように。