君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨
洗われるように美しい世界
ちょうど下校時のタイミングに降り出した雨を見上げたら、まるで天から落ちる銀色の糸みたいに見えた。
生徒玄関の横に並んで咲く赤い花が、細い雨粒を受けて、うなづくように小さく揺れている。
……んー。この程度なら、家に着くまでそんなに濡れなくて済みそうだな。
下校中の生徒たちにまぎれて、そんなことを考えながら急ぎ足で校門へ向かうあたしの頬に、シトシトと雨が落ちる。
学校から自宅までの距離は、歩いてせいぜい10分程度。
この近さが魅力でこの高校に進学したけれど、こんな風に突然の雨に見舞われた日とかは、特にその恩恵が身に沁みる。
たいして強くもない雨だけど、濡れるのはやっぱり気持ち悪いから走って帰ろっかな。
よし! スタート!
「よう、向坂(さきさか)」
うおっとと! ストップストップ!
校章が刻まれた門柱からダッシュし始めた矢先、背後から名前を呼ばれて急ブレーキをかけた。
振り向いた先には紺色制服ブレザー姿の、傘を差した男子が立っている。
サイドを自然に分けた黒髪は、トップの部分がふわりと緩く遊んでいて、ちょっと睫毛が長めで切れ込みの深い二重まぶたの目が穏やかに微笑んでいる。
見慣れたその笑顔が、彼の優しい性格をよく表していた。