君の消えた青空にも、いつかきっと銀の雨

 凱斗、帰っちゃうの? 

 そう思ったけど、口には出せなかった。亜里沙も文句も言わずに黙ってる。

 ここにいたって結局、みんな揃って黙り込むしかないから。

 あたしたちができることは、入江さんの自殺の原因があたしと凱斗だっていう現実を、そのまま受け入れることだけ。

 受け入れても……入江さんは生き返らないし、どこにも救いはないけど。

 全部が宙ぶらりんで、心細くて、あたしはテーブルの横を通り過ぎる凱斗の顔を不安な思いで見あげた。

 凱斗に声をかけたい。話したい。でもなにを? どんな風に?

 いろんなことが胸の奥で溶けた泥水みたいにドロドロしてて、ちゃんとした言葉にならない。

 そんな思いが聞こえたように、不意に凱斗が立ち止まってあたしを見た。

 まるで迷子のような、悲しそうな目をしている凱斗の唇が動く。

「向坂、俺……」

 あたしは、凱斗の言葉を待った。

 凱斗がなにか言ってくれたら、ほんの少しでも救われそうな気がしたから。

 言葉にできない気持ちを込めて、精いっぱい、凱斗を見つめた。

< 92 / 274 >

この作品をシェア

pagetop