君に溺れる。
「…多分」

多分って何?
そんな優しさなら、俺は要らない。
もう全て、無かったことにしたい。

「…そう」

涙声なのがバレないように、出来るだけ短く返事をする。

「………最後に1回だけ」

暫くの沈黙の後、彼女からそんな言葉が聞こえた。
彼女のその言葉の意味はすぐに理解できた。

俺は涙だらけの顔をバレないように拭って、彼女を抱き締める。

キスは好きな人としかしない。

かつて初めてその行為をする時、そう言ったのを覚えている。
だけど俺は構わず彼女の唇に俺の唇を触れる。
触れるだけのキスをする。下手くそなキスを。
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