諸々の法は影と像の如し
序章
 京の内裏の一画にある陰陽寮では、今日も慌ただしく人が行き交っている。
 その隅のほうでは、一人の小柄な少年が、積み重ねた書物を持って、急ぎ足で奥の書庫に向かっていた。

 が、書庫の前で足が止まる。
 両手が塞がっているため、書庫の戸を開けられないのだ。

「……」

 しばし考えた末、少年は片足を上げた。
 曲げた腿を台に、書物を支えて片手を離す。
 その途端。

「あっ!」

 どさどさーっと書物が床に散らばった。

「ああ……。もぅ、急いでるのに」

 床に這いつくばって、そこここに散らばった書物を掻き集める。
 一通りぶちまけた書物を集め、持ち上げる前に書庫の戸を開けよう、と引き戸に手をかけようとしたとき、いきなり戸が開いた。

「……あ」

 中から出て来たのは、少年と同じ歳の頃の陰陽師だ。

「また何か、ドジしたのか?」

 中から出て来た少年は、笑いながら戸を開けてくれた。
 ついでに抱えていた書物も半分持ってやる。
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