諸々の法は影と像の如し
---僕は恋愛経験もないしね---

 ひっそりとため息をつく。
 いきなりこんな美女をあてがわれても、初心な章親は狼狽えるばかりだ。

 それなら今のように、がさつで口の悪い美女のほうが楽かもしれない。
 しみじみ思っていると、不意に御魂が章親を見た。

「……何じゃ」

 じ、と見ているのに気付いたのか、僅かに顔をしかめている。

「いや、ほんと、御魂様は綺麗だなぁ、と思って」

 さらっと言ったことに、御魂は口を引き結んだ。
 少しだけ頬が赤くなる。
 それに気付かず、章親は部屋を照らしている燭台に目をやった。

「そうだ。御魂様、『まに』はどう?」

「……え?」

「お名前」

 言いつつ、章親は文机から紙を取り出すと、筆で『魔﨡』と書いた。

「御魂様は龍神だし、龍とくれば宝珠でしょ。御魂様は綺麗だから、宝珠にちなんで。『マニ』って珠のことなのね。それに字を当ててみた。この『﨡』ってね、玉虫のことなんだよ。玉虫って綺麗だし、御魂様に相応しい」

 章親から名を書いた紙を受け取り、御魂はちょっと視線を彷徨わせた。
 照れたように紙と章親と、その辺に視線を遊ばせ、再度紙に目を落とすと、うん、と頷いた。

「魔﨡(まに)、な。うむ、良かろう」

 ぶっきらぼうな言い方のわりに、口角は上がっている。
 気に入ったらしい。

 かくしてようやく、章親の御魂は『魔﨡』という名がついた。
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