諸々の法は影と像の如し
 次の日も、章親は森を浄化して歩いた。
 とりあえず、物の怪絡みの被害が出ている今、少しでも浄化して、そういったモノを寄せ付けないのが一番である。
 ということで、賀茂社参拝の日まで、章親が浄化しているのである。

「社のほうは、さすがにいつも綺麗だよね。この森も、いつもだったら僕が浄化するまでもないぐらい綺麗なんだけどな」

 ぼやきつつ、森の中を歩く。
 自然はそれだけで浄化作用があるものだ。
 ましてここは神域である。

「まぁ神域の森は、最大の境だっていうけどさ」

 異界との最大の境目。
 自然の浄化作用で異界からの漏れを抑えているとも言える。

「空気は綺麗なほうがいい。神も喜んでおろう」

 そういう魔﨡も龍神だ。
 神が言うのだから本当なのだろう。

「それに、お主の浄化は何というのかな、強制的ではない、というか。気に入らぬモノを全て排除するようなものではない。物の怪も、全てが悪さをするモノではないじゃろ。お主の気を慕って現れる物の怪もおる」

 のぅ、と章親の肩の上の毛玉に言う。
 確かに毛玉は悪さはしない。
 してもいたずら程度だ。

「人ならざるモノを全て排除するような浄化だと、こ奴もたちまち祓われよう」

 こつんと毛玉の頭を錫杖で小突く。
 なるほどね、と思い、章親は自分の周りを見回した。

「でも僕を慕って現れちゃったら、ちょっとまずいよ。いくら悪くない子でも、物の怪が宮様の通り道に出たら、それだけで陰陽寮の責任問題になるし」

「それは心配いらぬ。今も特に見えぬであろ。お主を慕う物の怪は、そういったこともわかっている。お主に迷惑をかけることなどせぬ」
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