諸々の法は影と像の如し
「そうです。まぁ時に羽目を外してしまうことはありますが」

 羽目を外したが故に封じられていた毛玉が、ぽりぽりと頭を掻く。
 反省しているんだか、していないんだか。

「毛玉。お酒は適量で頼むよ。また封じられちゃうよ?」

「わ、わかりましたよ。でもあれは、章親様を巻き込んだってのも大きかったんですよ。じいさまってのは、孫に甘いものですからね。けどじいさまも、封じたものの、すっかり忘れるってどうなんです。力が強いわりに、どっか抜けてるんですから」

 肩の上でぶーぶー言う毛玉と森の中程まで来たとき、あれ、と章親の足が止まった。
 また一点、空気が穢れている。

「見てきま!」

 『す』をすっ飛ばし、気付いた毛玉が、びょん、と肩を蹴って飛んで行く。
 ぼす、と草むらの中に飛び込み、すぐに顔を出す。

「何もありません」

「そう」

 何もないのはいいことだが、何もないのに一点だけ軽い浄化では祓えない穢れがあるというのはどういうことだろう。
 しかも、二日続けて。

 昨日と同じように、その場の浄化をしながら、章親は周りを見渡した。
 昨日と同じ場所ではない。

 同じ場所なら異界との穴が開いているとも思えるのだが、そういうわけでもない。
 穴が開いていれば、章親の浄化などでは対処できないだろう。

「何だろう、この穢れ」

 何か気になる。
 だがしっかり浄化すれば、その穢れは綺麗さっぱりなくなるのだ。
 魔﨡が、ぽんと章親の肩を叩いた。

「何、祓えたのであれば問題あるまい。ここは人も多い。毎日参拝客もいるのであろ? 人など大なり小なり悪い気を持っているものよ。小さな穢れぐらい、毎日付こう」

「そっか、そうだね」

 うん、と頷き、でも何となく引っ掛かりを覚えながらも、章親はその場を離れた。
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