諸々の法は影と像の如し
「いきなりお上を狙うなんてことはない、と思うが、わからんな。内裏がどれほど手薄になるかもわからんし。けど陰陽寮の持ち場は糺の森。今更これを変えることは出来ないし」

 悔しそうに、守道は拳で床を叩いた。
 守道は陰陽師にくせに、やたらと現実的だ。

 被害が出て、今や誰もが知るほどの噂になっているのに、実際その鬼を見たものはいない。
 それが返って怪しいのだと、平然と言う。

「ところで章親。やっと御魂に名前を付けたのか」

「あ、うん」

 そう言って章親が書いた字を、守道は興味深そうに見る。

「なかなか皮肉たっぷりだな」

 ちょい、と『魔』を指す。
 章親は、ふるふると手を振った。

「違うよ。どうしても他にいい字がなかったんだよ。『魔』だって悪い意味ばっかりじゃないし。力の強い御魂様にはぴったりでしょ」

「まぁな。そこまで考えた名なら、御魂も満足だろ」

「うん、気に入ってくれたよ。ところで守道の御魂様は?」

「紺(こん)」

「……そのまんまじゃない」

「そうとも言うが、俺の好きな色でもある」

 一応好きなものから取ったのだな、と思った章親が顔を上げると、いつの間にやら守道の少し後ろに、小さな子供が、ちょこんと座っている。
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