諸々の法は影と像の如し
 笑って高坏の上の干菓子を口に放り込んだ守道が、ふと思い出したように章親を見た。

「そういえば、少し前に式部卿の姫君が病に伏してるって話があったろ」

「あったっけ」

 宮中のことに疎い章親は、式部卿と言われてもぴんと来ない。

「まぁ名ばかりの役職だしな。一応宮様がなる職だが、閑職だな」

 宮様といっても、皆が皆裕福なわけではない。
 女御も多いし、元々身分の低い更衣などの産んだ宮様など、並みの貴族よりも惨めだったりするのだ。

「そこの姫さんが、少し前に病になったって話があって。気鬱というか、日がな一日部屋に籠って震えていたり」

「何かに憑かれたの?」

「式部卿も、そう思ったらしい。何せ夜に出掛けて帰って来たと思ったら、そんな状態だったもんで。そりゃ何かに憑かれたと思うだろ。で、陰陽寮に祓いの要請があったのさ」

 だから知っている、と言う。

「え、僕知らないよ?」

「大した案件じゃなかったし、皆宮様のお成りのことで忙しい。章親は何か、御魂とぎくしゃくしてたときだったから、誘いにくかったし。紺もいることだし、俺だけで出向いたんだ」

「そ、そうだったんだ。ごめん」

 少し章親が慌てると、守道はひらひらと手を振った。

「いいって。案の定、全然大したことなかったし」
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