諸々の法は影と像の如し
「でも守道は、元々そんな気も感じなかったし、祓いもきちんとしたんでしょ? それにそもそも、守道は人食い鬼の存在信じてないじゃない。姫君自体が、殺人犯だっていうの?」

 人食い鬼などが憑いていたら、さすがに陰陽師であればわかるはずだ。
 人食い鬼などでなく、人の犯行だと言うのなら、これでは姫君の犯行ということになるのではないか。

「……いやぁ、さすがにそれは……無理があるかな、とは思う。詳しい人の感情なんかはわからないけど、別に式部卿の姫君と宮中の誰かが揉めてるとかいう話も聞かないし。式部卿自体、宮中から忘れられたような存在だし。それが原因かもだけど」

 宮家の人間でありながら閑職に追いやられ、己を顧みない宮中の人間に復讐しようという肚か。
 だがやはり、それも無理がある。

 何せ姫君は女性だ。
 壮年の男を襲って身体を切り刻むなど、出来るとも思えない。

「大体そんなこと考えてたら、不穏な気が渦巻いてるはずだぜ。宮中の被害はそれからでも、市井ではすでに犯行は行われていた。姫君が犯人なら、穢れがばっちり付いてるはずだろ」

「そうだね、確かに」

 人の犯行であれば、相当な殺意だ。
 そんな気を纏う人間に、陰陽師が気付かないわけはない。
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