諸々の法は影と像の如し
「何か嫌な気が……」

 そう言った章親の目が、部屋の一点で止まる。
 部屋の中は、燭台が灯っている。
 
 芯も切っていないので、隅々まで明るいはずだ。
 なのにそこだけ、やけに暗い。

 章親の視線を追った守道も、同じところで動きを止めた。

「章親様……。あそこ……」

 毛玉が口を開いた、その瞬間。
 部屋の隅の闇から、何かが飛び出してきた。
 それは真っ直ぐに、毛玉に飛び掛かる。

「わあーーーっ! 章親様ぁっ!!」

 毛玉の絶叫が響いた。

「な、何っ?」

 いきなりなことに固まる章親の目の前で、毛玉に飛び掛かったモノは、くわ、と口を開けた。
 二本の牙が、ぎらりと光る。

 見た目は毛玉に似ているが、『毛玉』というほど毛が長いわけでもない。
 毛玉というより猿のようだ。

「破っ!」

 毛玉の危機を察し、守道が呪を放った。
 ばちっと火花が散り、毛玉の上の物の怪は、小さく叫んで飛び退った。

「あっ章親様っ」

 毛玉が涙目で章親に駆け寄る。
 が、やはりその毛玉目掛けて、物の怪が飛び掛かる。

---毛玉を狙ってる……?---

 そう感じた章親は、恐ろしさを振り払って、毛玉の周りに素早く小さな結界を張った。
 今しも毛玉に飛び掛かろうとしていた物の怪は、間一髪、結界にぶち当たる。
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