諸々の法は影と像の如し
「小童が! お前は口の利き方がなっとらん!」

「~~~っ」

 柱に寄りかかって蹲りながら、章親は涙目で、吠える御魂を見上げた。
 錫杖を持ち、片手を腰に当てて文字通り上から見下ろす御魂と章親の間に、また険悪な空気が流れ始めたとき。
 不意に、ばたばたと激しい足音が響いた。

「あっ! 章親様! ただいま表に、急な来客が……。緊急の祓いの依頼のようです」

 簀子を走って来た女房が、慌てた様子で章親に言う。

「え、父上は?」

「お殿様もいらっしゃってます。でも憑き物が強くて。わ、私どもでは近づけませぬ」

 少し気を付けて見てみると、女房にも多少の穢れがついている。
 そう長々客の相手をしたわけでもないだろうに穢れがつくとは、結構強力だ。

 章親は、素早く指で印を結ぶと、小さく呪を唱えた。
 あ、というように、後ろで御魂が反応する。

 それには気付かず、印を結んだ指で軽く女房に触れると、ついていた穢れが、さっと落ちた。

「よし。祓うだけで対応できるとも思えないけど。でも放っておくわけにもいかないし」

 自信なさそうに言い、簀子を表のほうに急ぐ章親の後ろを、御魂もついて行った。
< 13 / 327 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop