諸々の法は影と像の如し
「それにしても。陰陽師の屋敷に、易々と入り込めるとは。呪を施してあるはずなのに、どういうことだ」

 守道が、簀子に出て庭を眺める。
 屋敷に貼ってある呪に綻びはない。

「呪を破ったわけでもないのに、何で……」

 呟いた章親は、はっと毛玉を見た。
 そして、その手を掴む。

「これか!」

「ひええぇぇっ! あ、章親様ぁ、わし、あんな恐ろしい気、持ってないですぅ~」

 わたわたと暴れる毛玉の手を掴んだまま、章親は守道を振り返った。

「今日その小石を見つけたとき、毛玉は手で穢れた地面を掘り返した。それがついたままだったんだ」

「え、素手でかよ。無茶するなぁ」

 守道が、呆れたように毛玉を見る。

「章親にくっついてたくせに、浄化されなかったのか」

「う~ん……。意識してなかったからかな。手まで気が付かなかったな。僅かだから今まで忘れてたのか」

 それにしても、と章親は物の怪の現れた部屋の隅を見た。

「あの物の怪、毛玉に付いた僅かな穢れを元に、ここに来たのか。穢れがあれば、どんな結界も越えられるってことなの……?」

 毛玉の手を浄化しながら、章親が呟く。
 手だけでは飽き足らず、何となく毛玉全体を浄化してしまうのだが。
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