諸々の法は影と像の如し
「何て奴だ……。そんな強力な物の怪が、いつの間に?」

 ようやく腰を下ろし、守道も頭を抱える。
 人食い鬼は、本当だったのか?

「でも、あれが人食い鬼とは限らないよ。今狙ってたのは毛玉だし」

 それに、実際に食いついたところを見たわけでもない。
 牙を剥きだして威嚇しただけかもしれないし、と考え、さらに章親は毛玉の手に視線を落とした。

「それと、この穢れは、人のものなんだよね……」

「ん? 人の血ってことか?」

「うん。血はそれだけで穢れになるけど、普通はさほどきつい穢れじゃない。あれほど強く物の怪を引きつけるものでもないんだけど」

 血を流しただけで、あのような物騒な物の怪が集まってきたら、人などおいそれと怪我も出来ない。

「誰かが、人の血を使って、あの物の怪を召喚した……てことか?」

 考えつつ言った守道が、はっとしたように顔を上げた。

「もしかして! あの物の怪を召喚するために、一連の殺人が起こったんじゃないか?」

「え?」

「だから。殺した人の血を使って、強い物の怪を召喚したんだよ」

 確かにそういう呪術もあるだろう。
 ヤバい術ほど、血は有効である。
 だが、やはり章親は首を傾げた。

「う~ん。何というか、そこまでヤバい血ではないように思うんだよね」

 守道が、訝しそうな顔で章親を見る。

「大体そんな強烈な呪を施されたら、もっと穢れが顕著だよ。森に入った時点でわかると思わない?」

「そういやそうだな」
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