諸々の法は影と像の如し
第十一章
 賀茂社参拝当日は、朝から物々しい雰囲気が都を覆っていた。
 蔵人頭などにがっちり固められた牛車が、内裏をゆるゆると出て行く。
 章親は宮様が到着するまで糺の森を歩き回り、出来る限り場を浄化していった。

「章親。今日はその穢れはないか?」

 守道が足早に近付いて来て、こそっと耳打ちする。

「うん。今日はないみたい。諦めたのか、いつももっと遅い時間なだけなのか」

「じゃ、今のうちに結界を張ってしまおう」

 そう言って、守道は懐から袋を出した。
 昨日のうちに、章親と手分けして作っておいた結界用の白砂だ。
 それを参道に撒いて行く。

 それなりに強い結界を森全体に張ることは出来ないため、宮様が通るところにだけ白砂を撒いて張るようにする。

「じゃあ、僕は内裏のほうを見てくるね」

 章親も白砂を撒きながら、参道を本殿のほうへと走った。
 途中、能舞台に座っている魔﨡を見つける。

「魔﨡。こんなところで何やってるのさ」

 今日の魔﨡は巫女装束を身にまとっている。
 あまり余計な事は広めたくないので、宮司にだけ事情を説明した。
 賀茂社としても、自分の神社内での不祥事は避けたいところなので、魔﨡を巫女として宮様の先導に使うことに同意したのだ。
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