諸々の法は影と像の如し
「でもね、やっぱり人食い鬼は、いたみたいなんだ」

 そう言って、章親は早口に、昨日物の怪に毛玉が襲われたことを話した。

「……ふーん。でもそれが人食い鬼だという確証はあるのか?」

「う、そ、それは……。わかんないけど」

 あの牙は、いかにも人食い鬼のようだったが、毛玉にだって牙はある。
 毛玉に食いつこうとはしたが、食いついたわけではない。
 う~む、と考え込んでいた章親は、はた、とあることを思い出した。

「そうだ。そういえばあの物の怪、最後に獲物って言った。うん、穢れを元に、闇を伝って現れるのかな。消える直前にね、次の獲物って言ったんだ。次ってことは、今までも何かを襲って来たってことでしょ」

「そんなことを言ったのか。確かに、そういうことになるな。闇を伝う鬼……。う~む、物の怪は大抵闇のモノだしのぅ。人の僅かな血だけで獲物を追う、というのも解せんが……」

「あのときは毛玉にこの森の穢れが付いててね。ほら、前にもあったでしょ、一点だけの穢れ。あれを毛玉が触っちゃってね。それを追って来たみたいなんだ。で、その毛玉を次の獲物、と言うことは、今まで襲われた人っていうのは、糺の森の、あの穢れを踏んだとか、そういうのなのかな」

 なるほど、だったらわかるような。
 だがよく考えると、この森の穢れは、一連の事件が起こってから付きだしたものではないか?

「う~ん、わかんないな。それに自然に穢れを踏んだ人を襲ってたんじゃ、徐々に身分を高くするなんてこと出来ないし」

 やはり森の穢れは宮様のためか。
 考え込んでいた章親は、またも、はた、と顔を上げた。
 少し向こうがざわついている。

「いけない。宮様の行列が近付いてきたんだ。と、とりあえず、僕は内裏を見てくる。多分何もないと思うから、すぐに戻ってくるよ。魔﨡はきちんと、宮様をお守りしてね」

 不満顔の魔﨡に言い、章親は慌てて走って行った。
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