諸々の法は影と像の如し
---うん、やっぱりおかしなところはないね。結界も別に破られてないし---

 内裏の外壁沿いに歩きながら、章親は外から様子を窺った。
 見たところ、特に怪しげな動きはない。

---やっぱりこっちは、何もないね---

 ほ、と安心し、森に帰ろうかな、と思っていると、前から一人の若者が歩いてくるのに気付いた。

---……?---

 ここは内裏の中ではない。
 別に誰が歩いていたっておかしいことはないが、どこか違和感を覚え、章親は若者をじっと見た。

 章親の少し手前で、若者も立ち止まった。
 能面のように表情のない顔だ。

 若者と目が合った瞬間、章親は背に冷水をかけられたような気になった。
 固まる章親には気付かぬ風に、若者は章親に近付いた。
 何事もなかったかのように、横をすり抜ける。

---えっ……---

 若者とすれ違った瞬間、何かを感じた。
 この感じは、あの穢れ……。

「ちょ、ちょっとっ……」

 弾かれたように、章親は振り返った。
 だが。
 そこに若者の姿はなかった。

「え、え?」

 ひゅう、と風の吹き抜ける都大路を呆然と眺め、章親はただ、きょろきょろと辺りを見回した。
 森と同じ穢れを感じたような気がしたが、一瞬だったし、ほんの僅かだ。

「……ていうか……どこ行ったの……?」

 呆然と立ち尽くす章親の頭上で、大きな木がさわさわと揺れていた。
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