諸々の法は影と像の如し
 惟道は、道仙の父・道満(どうまん)に拾われた。
 歳は離れているが、道仙と兄弟として育てられたわけだ。
 道満にはもう一人、道仙の兄に当たる子がいた。

 何故わざわざさらに惟道を育てたのかはわからないが、強い術師だった道満は、惟道の能力を見抜いたのかもしれない。

 捨て子の生い立ち故か、惟道には自我がなかった。
 中身が空(から)だったのだ。
 依巫(よりまし)としては最適である。

 とはいえ道満は、惟道の負担になるようなことは強要しなかった。
 依頼された祓いの儀式や占いなどの折りに惟道を使うことはあったが、惟道が耐えられるかどうかを、きちんと見極めてくれた。
 道仙の兄も、惟道に非道な扱いをすることはなかった。

 だが道満が亡くなると、道仙は惟道に恐ろしい呪を施した。
 古い文献にあった術で、惟道を餌に、人食い鬼を召喚したのだ。

 が、守道も言ったように、ただ召喚しただけでは惟道はもちろん、道仙も危ない。
 あらかじめ惟道に特殊な呪をかけ、鬼は常に惟道を狙うが、実際に食いつくことは出来ないようにした。

 よって、惟道の血が付いたものに食いつく。
 惟道を食らう代わりに、血の付いた他の者を食うというわけである。
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