諸々の法は影と像の如し
 そのとき。
 しゃらん! という音と共に、章親の後ろから、さっと何かが飛び出した。
 靡いた不思議な色の髪が、章親の頬を打つのと同時に、男が弾き飛ばされたように、元の場所まで吹っ飛んだ。

「……」

 ぽかん、と、その場の誰もが動きをなくす。
 章親の前に仁王立ちしているのは、見たこともないような美女だ。
 この世のものとも思えない美女が、物の怪憑きの男を、錫杖の一撃で吹っ飛ばしたのだ。

「……ううう……」

 仰向けに転がっていた男が、呻き声を上げながら上体を起こす。
 まだ憑き物は落ちていない。
 死人の顔で、美女を睨む。

「っしゃああぁかっ!!」

 真っ赤な口を大きく開け、男が凄い勢いで、再び地を蹴った。
 美女に飛び掛かる。

 その後ろにいた章親は、尻もちをついて失神しそうになったが、美女のほうは、平然と腰を落とし、構えた錫杖を大きく振るって、飛び掛かって来た男の肩に打ち付けた。
 ぎゃ! と叫んで、男が地面に転がる。

「うらぁ!」

 美女とも思えない気合いと共に、再び錫杖が振り下ろされる。
 ばしん! と容赦なく、錫杖が転がった男を打った。
 そのまま、びしばしと男を滅多打ちにする。

「ちょ、ちょーっと待て! ま、待ってくだされ!」

 はた、と我に返った吉平が、慌てて錫杖を振り回す美女に駆け寄った。
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