諸々の法は影と像の如し
「章親は宮様とやらをお守りしただけであろうが! 礼を言われて然るべきのところ、何故謝る!」

「い、いいから魔﨡っ! 黙ってて! しかもお助けしたのは守道で、僕は何もしてないよ」

 青くなりながらも、章親はこのままでは延々文句を垂れそうな魔﨡を叱りつけた。
 が、魔﨡も負けていない。

「何を言うか! 初めっから我がこの者に従っていたのは、章親の命であろうが! 我が付いていれば、あのような小鬼の十匹ぐらい、敵でもないわ。実際攻撃したのは守道なれど、ずっと守っていたのは我であり、章親の浄化の力じゃろがっ」

 最早弁解のしようもない。
 うう、と青い顔でひたすら平伏する章親だったが、宮様は少し不思議そうに、魔﨡を見、ちらりと傍らに膝をついた守道にも目をやる。

「あの。どういうことです?」

 通常身分の高い女人は、外を出歩かないばかりか、顔も見せなければ声も聞かせない。
 今回のような行事は異例中の異例だ。

 宮様のお姿を生で見られるだけでもあり得ないことなのに、お声まで聞けるとは。
 章親は平伏したまま、一人パニックになった。

「……恐れながら申し上げます。これなる巫女は、実はこちらの安倍 章親の御魂であり、且つ類稀なる力を持つ龍神であります。此度のお成りにあたり、宮様をお守りせんがため、宮様のお傍近くに控えられるよう、巫女として付き従った次第であります。何分御魂といいますものは、通常の式より格段に地位が高いため、その……宮様におきましても、このような態度を……」

 最後のほうはもごもごと、守道にしては珍しく言葉を濁らせる。
 ぎらりと魔﨡が、足元の守道を睨んだ。
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