諸々の法は影と像の如し
「貴様、我を式と同じと言うか」

 しゃらん! と音を立てて、魔﨡の錫杖が守道の額に突き付けられる。
 堪らず章親は顔を上げ、錫杖の先を掴んだ。

「も、もぅ魔﨡! お願いだから、ちょっと黙っててよ!」

「……」

 この上なく不満そうに、思い切り口をへの字に曲げ、魔﨡はやっと口を噤んだ。
 どんなに気に食わなくても、章親の『お願い』には弱いらしい。
 何だかんだで、やはり仲良しである。

「宮様。重ねての無礼、誠に申し訳もございません。この魔﨡は本身が龍神故、気位も高ぅございます。神を相手にしているわけですので、何卒ご容赦のほどを……。もちろん御魂の制御を出来ぬわたくしに対する叱責はいかようにもお受けします故、この魔﨡のことは、平にご容赦いただきますよう……」

 がばっと額を地に付け、章親は一気に言う。
 が、やはり魔﨡が口を開いた。

「馬鹿者! 我を制御できるのは章親だけじゃぞ! お主は何も間違っておらぬ。これ、そこの宮様とかいう女子。神である我は、章親の命で、しぶしぶお主の警護に付いたのじゃ。本来我は主の身を守りこそすれ、他人の身など守らぬ。散々そう言っておるに、章親がお願いする故、主を差し置いてお主に付いたわけじゃ。先のような人食い鬼が出るところで、主よりも他人のお主を優先したわけじゃぞ。それのどこを咎めるのだ」

 章親と守道の謝罪は、あくまで魔﨡の宮様への態度であり、魔﨡の言うことはちょっとずれているのだが。
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