諸々の法は影と像の如し
「陰陽師だからこそ、不用意に目に見えぬものに反応しないようにしているのですよ」

「なるほど。一理あります」

 ほほほ、と笑う。
 次いで、宮様は少し後ろを歩いていた章親に目を向けた。

「そなたは? どう思いますか?」

「あっ……。え、そ、そうですねぇ」

 いきなり話を振られ、章親はどぎまぎと視線を逸らせた。
 守道は相手が宮様であろうと物怖じせずに話すことが出来るようだ。
 この宮様の気安い性格もあるのだろうが。

 だが章親は、元々裏に引っ込んでいるほうが好きな草食系だ。
 皇族などと、対等に話せない。

「そういえば、そなた、陰陽の頭(かみ)のお子か? 先程安倍……と申しましたね」

 口ごもる章親に、ふと思い出したように宮様が言った。
 はらはらしながら前を歩いていた吉平が、振り向いて頭を下げた。

「いかにも、我が安倍 吉平が愚息にございます」

 吉平としては、きちんと平伏して言上したいところだが、如何せん今は歩いている。
 それに、実際人食い鬼が現れた現場に、いつまでも宮様を置いておくわけにもいかないのだ。

「さすがは安倍家といったところですか。龍神が御魂など、凄いではないですか」

「は。え、はぁ。ありがとうございます」

 何と答えていいものか。
 章親は曖昧に答えて、ぺこりと頭を下げた。
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