諸々の法は影と像の如し
 それにしても、と宮様は興味津々の目で章親の横を歩く魔﨡を見る。

「こちらもさすが、というべきか。いやはや、何とも美しい。御魂というのは、皆こうも美しいものですか?」

 普段宮中の奥深くで退屈なのか、やけに饒舌だ。
 こういう人は気安く話せる友達というものもいないのだろう。

 宮中に『姫宮』様がいかほどいるのかは知らないが、他にいたとしても気軽に会いに行ったり遊んだりは出来ないのではないか。
 貴族ですらそうである。

---女の子がどういう風に育つのかも、良く知らないもんな---

 章親や守道は、比較的自由に育った。
 そもそも陰陽師は昇殿の許されない地下官人である。
 そう固い慣習もない。

---外に出るだけでも珍しいことなんだろうな---

 そう思うと、もうちょっとこの森を堪能させてあげたいとも思う。
 糺の森は気持ちの良い場所なのだ。
 今はそんなこと言っている場合ではないのだが。

「そうだ。そういやあの鬼は? 逃げたまんまじゃないの?」

 我に返った章親が、きょろ、と辺りを見回す。
 少し歩いたこともあり、先程の闇溜まりは見えないが。

「逃げたままだが、とにかく今は、宮様の御身が一番だ。一刻も早く、宮中にお送りしたほうがいいだろう」

 守道が言う。
 鬼を捕えるのは、宮様をお送りした後だということだ。
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