諸々の法は影と像の如し
「そ、そうだね」

 今のところ、少なくとも自分たちの周りにあの穢れはない。
 だが当の宮様が異を唱えた。

「えー。もう帰るの? 折角こんなところまで来られたのに」

「……宮様。お忘れになられては困ります。ここには人食い鬼がいるのですよ。そのようなところに、宮様を長々お引き留めするわけにはいきませぬ」

 きっぱりと、守道が言う。

「そうだけど。だけど鬼は、そなたらが追い払ってくれたではないですか」

「追い払っただけで、まだそこにいるやもしれぬのです」

「そうだとしても! この御魂が、あのような鬼の十匹や二十匹、屁でもないと言うていたではないですか」

 がばっと魔﨡の腕を掴んで、宮様が言う。

「ですが、この人数を守ることは難しゅうございます。いかな御魂とて、ここに詰める陰陽師・検非違使全員を守ることは叶いますまい」

「だったら皆、帰ってよし」

 軽く言い、宮様は付き従っていた蔵人頭に、解散! と言って扇を振った。
 言われた蔵人頭も女官も、目を見開いて固まる。

「宮様! 何を仰せです! 実際に一人襲われているのですよ! この上は全力で宮様をお守りしつつ、これなる陰陽師が申す通り、一刻も早く内裏に帰るべきです!」

 蔵人頭が噛みつかんばかりに言うが、宮様は鬱陶しそうに眉を顰めて扇を開いた。
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