諸々の法は影と像の如し
「だから皆がぞろぞろいたほうが危ないと言うているのです。わたくしだって自分だけ守って貰うのは心苦しいのですよ。だから皆は今のうちに逃げなさい、と言うておるのです」

「宮様を置いてなど、行けるはずがありませぬ!!」

「だから。これなる陰陽師たちと、さらにこの御魂がおれば、わたくしは安全です。そうでしょう?」

 広げた扇で口元を隠し、宮様はにこりと笑って魔﨡を見た。
 魔﨡は魔﨡で、宮様に目を向けられても偉そうに、当たり前じゃ、と鼻を鳴らす始末だ。

 章親は眩暈がした。
 『これなる陰陽師たち』というのは、章親と守道だ(吉平も入っているのか?)。
 確かに魔﨡の主は章親だし、何かあった場合に指示を出す役目はあろうが、だけど僕は鬼に対抗する力なんてありませんよー! と心の中で泣く章親などそっちのけで、宮様はもっぱら魔﨡に目を向けている。

「いや宮様。帰れと言われても、はいそうですか、とは言えませぬよ。確かに鬼は、いたのですし……」

 守道も渋い顔で、言葉を選びつつ口を開く。
 途端に宮様の視線が鋭くなった。

「じゃあどうしろと言うのです! そもそも鬼の調伏祈願に来たのに、まさにそこに鬼が現れて取り逃がすなんて。賀茂社の神様が、いざ調伏に乗り出してくれようとしたって、それを見ないまま尻尾を巻いて逃げてどうするのです。きっとあの鬼は、賀茂社の神様が調伏してくださろうと、おびき出したのですよ。でないと今まで誰も姿を見ていないのに、こんなに人の多いところにいきなり出て来た説明がつかないでしょう」
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