諸々の法は影と像の如し

 章親が浄化した人型を配る吉平を、惟道は木の上から眺めた。
 ほぅ、と少し目を細める。

---あの陰陽師、鬼と穢れの関係を見抜いたか。単なる偶然か?---

 惟道の手の中には、まだいくつかの小石がある。
 さてどうしたもんか、と思いつつ、去っていく検非違使らを見つめた。

 今小石を放ったところで、あの浄化された人型を持っていれば、おそらく惟道の穢れは弾かれるだろう。
 それほどあの者の浄化能力は優れている。

---それに、やはり身の内に入れてしまうのが一番だ---

 惟道がよく使う手は、振る舞い酒に僅かに血を混ぜるやり方だ。
 それであれば、飲んでしまえばまず穢れは取れない。
 以前道仙が招いた姫君の女房が口にしたのもそれだ。

 あの後道仙は姫君に無残に食い殺された女房の死体をわざと見せ、ああなりたくなければ言うことを聞くしかない、と脅した上で姫君を帰した。
 姫君は遠縁とはいえ宮家の姫君だ。
 宮中に繋がりもあろう、と駒として使うことにしたのだが、残念ながら世間に忘れられたような宮家の姫は、そうそう宮中に入り込むことなど出来なかったのだ。

---我らが接触できる官人など、それだけで程度が知れるというものだが---

 冷めた頭で、惟道は考える。
 何が何でも宮中への足掛かりを掴みたい道仙には、宮家というだけでも試す価値があったのだろう。
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