諸々の法は影と像の如し
第十四章
「しかし、本当に人食い鬼が出るとはな」

 本殿に用意された部屋で、守道が、ぼそ、と呟いた。

「あんなもの、自然に現れるわけはない。そんな簡単に異界と行き来出来たら、人などあっという間にいなくなる。異界のモノは、こちらから道を作らない限り、こちらには来ないはずだ」

「うん、僕もそう思う。でも守道、前にあんな人食い鬼、召喚出来たとしても召喚師も餌食になるって言ってたじゃない」

「誰かが我が身と引き換えに召喚したのかもしれん」

 うげ、と章親が仰け反る。

「そんなこと、何の意味があるのさ。何がしたいのかも伝えないまま鬼を野放しにすることになるよ? 目的もなく、ただ召喚するだけにしては、犠牲が大きすぎるよ」

「ただ世間を混乱させるだけが目的だったら? 人食い鬼を野に放つだけでも世間は大騒ぎだぜ」

「う、そ、そうだけど。そういう人は、そうなることを見ることが目的じゃないの? 死んじゃったら見られないよ?」

「そこまで考えてなかったのかも。まさか自分が食われるとまでは思わなかっただけかもしれないぜ」

 しん、と沈黙が落ちる。
 難しい顔をして二人の話を聞いていた吉平が、しばらくして口を開いた。

「とりあえず、何のために、ということは召喚した者に聞かねばわかることではない。それもこれも、守道の言う通り、召喚師が生きておれば、の話だが。あのような鬼を召喚したからには、わしも生き延びておるとは思えぬな」
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