諸々の法は影と像の如し
「え、何なに。えーと、そなたは確か……」

 身を乗り出す宮様に若干引きながら、章親はがばっと平伏した。

「あ、安倍 吉平が嫡男、章親にございます」

「ああ、そうそう。へぇ? 良い子ばっかり従えてるってこと? さすが、凄いわね~」

 何と軽い物言いなのか。
 脱力しそうになる顔を、章親は慌てて引き締めた。

「おのずと守られてるって、どういうこと? 産まれながらに、そういう力が備わってるっていうことなの? うわぉ、さすが晴明殿の孫だけあるわねぇ」

 う、と平伏したままの章親の顔が強張った。
 今まで何度となく言われてきた、『晴明の孫』。
 章親にとっては重圧でしかない言葉だ。

「ここには稀代の陰陽師が集まってるってことね。あんな鬼ぐらい、簡単に捕縛してしまえるでしょ? 期待しておりますよ」

 広げた扇の向こうから、宮様は頼もし気に笑う。
 章親の家を知っている者の、いつもの反応。
 安倍の家の者であるからには、当然それ相応の力もあるだろう。

 ……何故例外ということを考えないのだろう。
 章親は、ひっそりとため息をついた。

「捕縛? 何を緩いことを。見つけ次第滅してくれようぞ」

 感傷に浸っている章親の横で、魔﨡がさらりと物騒発言をした。
 ぎょ、として顔を上げると、魔﨡はいかにも楽しそうに、錫杖を弄んでいる。
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