諸々の法は影と像の如し
「……」

 すぐ前の簀子にも、前に広がる境内にも、誰もいない。
 何が落ちているわけでもなさそうだ。

「鳥か何かか?」

 呟きながら、守道は戸を開けて簀子に出てみた。
 その途端、ひゅっと風を切り、何かが守道を横切り、室内に飛び込む。

「ふんっ!」

 片膝を立てた魔﨡が、目にも留まらない速さで錫杖を一閃し、飛び込んできたものを叩き落とす。
 その素早さは素晴らしいが、ちょっと章親は引いた。
 飛び込んできたものを、ちゃんと見極めての対応とは思えなかったからだ。

「ま、魔﨡。そんな、何でもかんでも杖で叩き潰しちゃ駄目だよ。小鳥とかだったらどうするの」

「叩き潰したわけではないぞ。そもそもいきなり飛び込んでくるほうがおかしいと思え。戸を開けた途端に飛び込んでくるなど、ろくなものではない」

 随分偏った考えだ。
 これではうっかり魔﨡を驚かそうものなら、即座に頭を潰されかねない。

「……まぁ用心に越したことはないがな」

 苦笑いしつつ、守道が簀子から部屋に入りつつ言う。
 戸を閉めようとしたとき、守道は、ふと簀子の端に何かが落ちているのに気付いた。
 屈んで見ると、小さな石が一つ落ちている。
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