諸々の法は影と像の如し
「あ、章親っ。お前の御魂様が打ち据えてくれたお蔭で、もうこの者は動けぬ。今のうちに、浄化をしてみよ」

 吉平が、階(きざはし)の前でへたり込んでいる章親に向かって言った。

 この場には依頼人のほかに、従者、開いたままの扉からは野次馬が覗き込んでいる。
 由緒ある安倍家の倅が、情けない姿ばかりを曝しているわけにはいかないのだ。

「う……ああ……」

 父に言われて立ち上がろうとするも、章親の足は言うことを聞かない。
 いまだにがくがくと震え、腰も抜けたままだ。
 すると、御魂がすたすたと章親に近付いた。

「何をぐずぐずしておる。おお、そういえばお主、我の召喚をしてすぐじゃし、この小柄さじゃ。うんうん、疲れるのも無理ないわい」

 どこかわざと大声で言い、御魂は錫杖を、ひょい、と章親の襟に引っ掛けた。
 そのまま、ぐい、と上に引っ張って、無理やり章親を立たせる。

「ほれ。支えてやるから、浄化せよ」

 御魂だって章親より少し大きいとはいえ、細い女性である(多分)。
 なのに事もなげに錫杖一本で章親を支えて男の元へ連れて行く。

 まだ見た目は死人のままの男に近付くのに抵抗はあったが、身体が浮くほど襟首を掴まれているので、逃げることもできない。
 もっとも男は御魂に散々しばかれて、ぴくりとも動く気配はない。
 むしろ初めに見たときよりも傷だらけなため、死人度は上がっている。

 ふるふる、と震えたまま、章親はすぐ後ろの御魂を見た。
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